主に詩で綴るひとつの物語

そんな世界を考えたこともなく

ラナー

greedy

汚れも目立たない横断幕と

怒号とは程遠い妙にリズムの合った叫び

たいして優しくない異国の友達が

乾いた薄笑いで口角をあげた

ナニガホシイノ?

ホンキデイッテンノ

fall

あなたが叫ぶ
引き金から飛び出した鉛は
罵声を切り裂き石の壁にめり込んだ
さあこれで生きられる
命を取られないし食い物にありつける
捕まえろ、早く

自分を傷付けほら
わたしをまた孤独にする
うまくやれよ、ラナー

故郷を捨て逃げ込んだこの街で
わたしはきっと花を売ろう

群衆の熱は火炎瓶を溶かし
やがて来る静寂を待つ
ほら
わたしひとりが
行き先の無い道の端で花を売る
何日かすればまた
怒り狂う若者が徒党を組むのだろう

地下から這い出したあの人は
牢獄という
麻薬のような安全を手に入れた
愚かな人間は
神に化石を捧げ
富とボロを纏った孤児を舐め回す

ラナーと
誰かの呼ぶ声が聞こえる
わたしは何処にもいかずに
ここで花を売ろう
腐りきった住処の庭に咲く
ただの雑草は
見すぼらしいまま
枯れるこという事をまだ知らない

誰か、おしえて

何処かに行くつもりも、アテも無かった。
それでも、何も信じなくなったわたしは考えられる限りの汚い手を使って、結局は船に乗った。
花は枯れるより前に腐った。
だからその時
魂の肉片を火薬の匂いがする悪魔の下僕に売った。

ミセモノゴヤノ カチク ダッタカラ まるで。

うまくやれよ、ラナー

赤黒く光る、頭の落ちた薔薇の棘がさかんに引っ掻きキズを作る。
そしてたいしたことのない放浪の先で、わたしはずっと一緒に生きてきた、自分の影を無くしたことを知った。

freeze


ぬるい正義に侮蔑のツバを吐くわたしは

命をかける凶器の乱舞の中に

自分の塊を見る

安らぎを欺瞞にかえているのは

腐ったまま凍った自分自身

それを隠すために仮縫いの服を羽織った

わたしそのもの

「人の尊厳って、そう言うこと考えた事ある?」

いつだったか、同じ職場で働く優美が大きな目を少し伏せて、突然口にした。
わたしは首を傾げたと思う。だってそれまで旦那の愚痴を聞いて貰ってたはずだったから、確か。

「自分の日常とは無縁でしょ。今この瞬間にも銃弾に怯える人のことなんて想像できないでしょ?」
優美はコーヒーカップを弄びながら一方的に話を続けた。


「でね、じゃあそんな怯えた暮らしをする人とこうやってお茶してる自分が、同じ世界に生きてるってことが嘘みたいで、それってなんかの意味があるのかなってちょっと思ったの。
いや、別に善人ぶるとかじゃなくて、たとえば命の危険に晒されてる人がもし、もしよ、この店に飛び込んできて目の前で助けて!って言ったとするじゃない。その時に何かするのかな、わたしは…… って思っただけ」


それだけ言うと、優美はスマホに目を落とした。

何となく覚えている限りでは、そんな感じだった。
わたしはその時、彼女何かイライラするようなことでもあったのかな?なんて悪いけどそう思った。
誰だって自分の事で精一杯だもの。

ただ、そういえば彼女に言われた事がある。活字の中で生きる人の声を、自分は聞いたことがある、とかそんなような事を。
やっぱり優美はお気楽で、大した悩みを持たずに能天気に生きてるのかもね。

そう、そっちの言葉こそ、むしろ記憶に残ってるくらいだから。

dignity

生きるってどういうことか知ってるか?ラナー
取り敢えず今
命を取られる脅威を排除して
メシを食うってことだ

うまくやれよラナー

そうやってあなたは言った
それならばわたしは生きている
わたしはまるで
死にながら生きている
命を取られる脅威を他人に押し付けたわたしは
叶うはずのない心底贅沢なものを夢に見る

自分を抱きしめる二本の腕と
いくばくかのやすらぎ
もしそれが手に入るのなら
霞を食べて目を瞑り
石ころだらけの地面に横たわろう

生きるってどういうことか知ってるか?ラナー

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